特別講演会

  • 2019年10月26日(土)13:00-15:00 
  • 場 所:新領域環境棟1階 FSホール 案内図
  • 定 員:当日先着 180 名(満員の場合は入場をお断りする場合がありますのでご了承ください。)

13:00-13:40
岩田 容子
岩田 容子
主な研究分野
海洋生物の行動生態学(頭足類の繁殖行動や受精のメカニズム、繁殖形質の種内変異など)

海の中の恋のかけひき

岩田 容子(いわた ようこ)
大気海洋研究所 海洋生物資源部門 資源生態分野 准教授

 

生物の進化は、自身の遺伝子を次の世代により多く残せた性質に進んでいきます。子孫を残すための生物の繁殖戦略は、進化の表舞台といえるでしょう。海の生物の行動は、一般に観察がしづらく、水族館で泳いでいる姿を見ても、一見無表情に思えるかもしれません。しかし、海の中で、生物たちは想像以上に多様で複雑な恋のドラマを繰り広げているのです。

頭足類(イカ・タコの仲間)は、よく食卓にも上る身近な海洋生物ですが、その生態は意外と知られていません。広くは貝の仲間ですが、大きな脳と発達した運動能力、人間と同じカメラのような眼を持ち、複雑な行動をとることから、海の霊長類とも言われています。一瞬で出したり消したりできる体色模様を使って、仲間とコミュニケーションをとることもできるのです。

本講演では、水槽での行動観察やDNAを使った浮気調査などで段々と明らかになってきた、雄同士の熾烈な争いや雄と雌の利益のせめぎ合いなど、イカ類を対象とした繁殖行動研究を紹介します。海の中でみられる巧妙な恋の駆け引きを、ちょっと覗いてみませんか?

 

13:40-14:20
辻 佳子
辻 佳子
主な研究分野
機能性ナノ粒子・薄膜プロセッシング。材料のナノ構造制御の理解と、ディスプレイのような情報デバイス、太陽電池のようなエネルギーデバイス、医療診断のようなバイオデバイスなどへの展開をはかっています

光るナノ粒子-産業のコメ半導体シリコンの医療応用

辻 佳子 (つじ よしこ)
環境安全研究センター長・教授

 

みなさんはナノ粒子を身近に感じたことがありますか?赤色のステンドグラス。あれは、ガラスの中に金のナノ粒子が入っているから、私たちには赤色のガラスに見えるのです。

結晶シリコンは半導体産業はもとより、太陽電池を始めとするエネルギーデバイスの主役でもあります。シリコンはナノ粒子化するとバンド構造が変化し、その大きさの違いや表面状態の違いにより、様々な波長の発光が利用可能となります。有機蛍光色素にくらべて、時間と共に退色してしまうという問題も少なく、カドミウムを含む化合物半導体のような重金属の溶出による毒性も少ないことを特徴としています。

蛍光色素を用いて細胞内の特定の構造や分子を標識して画像として観察するバイオイメージングは医療における最先端分野です。目的の部位を最小限に切除する外科手術支援や医療診断のマーカーなど、さまざまな応用が期待されています。しかしながら、その用途は、イメージング試薬などの研究に用いるにとどまっています。その理由は、シリコン合成の原料の分解温度が高く、また、合成プロセスウインドウが狭く、生産性が低い上に、生産コストが高いことにあります。バイオ分野での実用化のためには、これらの課題を解決する必要があります。

本講演では、シリコンナノ粒子のさまざまな合成方法とその発光、医療分野への応用について解説します。ナノ粒子の世界へどうぞお越し下さい。

14:20-15:00
有賀 克彦
有賀 克彦
主な研究分野
超分子化学・表面科学・ナノテクノロジー:特に分子マシンなどを表面で操って、危険物質を検出するセンサーを設計したり、薬物を自由に放出するドラッグデリバリーシステムなどの開発をしています

10億分の1メートルの車や機械をどうやって動かすか

有賀 克彦(ありが かつひこ)
大学院新領域創成科学研究科 基盤科学研究系 教授

 

2016年に分子マシンがノーベル賞を取りました。これは、分子を機械のように動かす方法を開発したからです。翌2017年の春には、世界で初めての分子の車のレース(ナノカーレース)がフランスで開かれました。世界の6つの科学者チームが分子の車を作ってその速さを競争したのです。科学の進歩によって、分子を自由に操れるようになってきているのです。分子の大きさはおよそ10億分の1メートルですが、その分子を操ることはどのくらい難しいことなのでしょうか?普通の車と分子の車の大きさの差は約20億倍です。その大きさの違いは、地球の大きさと米粒の大きさの違いとほぼ同じです。ですので、人間が分子の車を動かすのは、地球の外から米粒を操っているぐらい大変なことなのです。

では、分子の車をどうやって動かすかというと、非常に鋭くとがった針を分子に近づけて電気刺激を与えると、分子はピクピクッとして動きます。その動きを使います。ナノカーレースは、それを丹念に繰り返して、走行距離1000万分の1メートルを36時間以内にゴールせよという、とても小さいけれど過酷なレースなのです。精密な操作を要するので、レースは超高真空・極低温で行われます。

最近、私たちの研究室では、それとは全く反対の室温常圧下で人間の手の動きで分子マシンを操る方法を開発しました。最先端技術で分子を操るのか?誰でもできる方法で分子を操るのか?講演では、その発想の違いを紹介します。