特別講演会

平成29年10月28日(土)13:00-15:00  場 所:新領域環境棟1階 FSホール(定員:180名 先着順

13:00-13:40

上田 卓也

生命の合成は可能か?

上田 卓也 (うえだ たくや)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科・教授

 

生命は細胞から構成され、細胞の働きはタンパク質やタンパク質が作る分子の働きによって担われています。細胞には数千から数万種類のタンパク質が含まれ、相互に連携しながら円滑に細胞システムを維持しています。タンパク質は、20種類のアミノ酸が重合したポリマーであり、タンパク質のアミノ酸配列は遺伝物質であるDNAに書き込まれています。

人類は、遺伝子解析技術の急速な発達によりDNAという生命の設計図を明らかにし、また生命の部品であるタンパク質についてもその構造や働きについての膨大な情報を手にしています。生命の設計図とその部品があれば、それをもとに生命の単位の細胞を作ることに挑戦しようと思うのは自然なことです。生命の合成についての実験的研究をするのが合成生物学という新しい生命科学です。合成生物学のアプローチの一つに、部品のタンパク質から細胞を組み立てるやり方があります。私達は、細胞からタンパク質を合成するシステムに関係しているタンパク質群のみを取り出してタンパク質を合成できる分子工場—PURE system—をつくることに成功しました。このPURE systemに、例えばゲノムのDNAを入れると、細胞の全タンパク質ができ、そのタンパク質が集合すると人工細胞が生まれるかもしれません。合成生物学には設計図であるDNA分子を大規模に入れ替えて新しいサイボーグ細胞をつくるアプローチもあります。遺伝子を大規模に改造することで光合成細胞や石油をつくる細胞を人工的に作ることが実現すれば、農業などのバイオテクノロジーに革新的な技術がもたらされる可能性があります。

 

13:40-14:20

渡 辺 宙 志

スパコンでできること、できないこと

渡辺 宙志 (わたなべ ひろし)
物性研究所附属物質設計評価施設・助教

 

最近、ディープラーニングやAI(人工知能)といった言葉をよく目にするようになりました。ハードウェア、ソフトウェア、様々な技術の飛躍的な発展により、コンピュータは以前には考えられなかったような表現能力を獲得し、様々なことができるようになりました。そのコンピュータのうち、非常に大きなものが「スーパーコンピュータ」、略してスパコンです。このスパコン向けのプログラムを開発、実行するのがスパコンプログラマです。スパコン、なんとなく名前はすごそうな気がしますが、どのあたりが「スーパー」なのでしょうか。スーパーなコンピュータを使いこなすのだから、スパコンプログラマは凄腕プログラマなのでしょうか。

本講演では、それなりに長い間「スパコンプログラマ」として過ごしてきた私の経験を通じ、スパコンを使うということはどういうことか、何を目指してスパコンを使い、何ができたのか、そして何がまだできないのか、といったことについて紹介したいと思います

14:20-15:00

藤井 輝夫

ミクロの試験管をつくってみたら!?

藤井 輝夫(ふじい てるお)
生産技術研究所・所長

 

微細加工技術を用いて作製するマイクロ流路の内部で化学反応やバイオ分析を行う一連の技術を総称して「マイクロフルイディクス」と呼びます。典型的なマイクロ流路の幅は100ミクロン程度、これは髪の毛の太さと同じくらいの寸法です。この流路の中では、流れや分子の振る舞いの性質により、ミクロスケール特有の現象が見られますが、これをうまく利用すると、これまでの技術ではできなかったことができるかもしれない、という期待があります。こうした期待、そしてミクロスケールでの現象を調べてみることへの好奇心から、かれこれ20年以上も前のことですが、その当時は全く未知であった分野の研究に取り組むことになりました。その後、基礎的な生物学分野をはじめ、創薬や臨床診断、さらには再生医療などバイオ医療分野への応用に向けて世界的にも活発に研究が行われるようになり、最近はいくつかの具体的な応用が見られるようにもなってきました。

生産技術研究所は、本年4月から附属千葉実験所を柏キャンパスに置くことになり、ここでは主として大型の実験施設を活用した研究を展開しておりますが、所内では2014年には附属統合バイオメディカルシステム国際研究センターを設置するなど、マイクロフルイディクスを始めとしてバイオ医療関連分野の研究も行っております。本講演では、本所を知っていただく一つのきっかけとして、そのような研究の一端をご紹介いたします。


特別講演会の会場案内図
特別講演会の会場