東京大学柏キャンパス一般公開2015〜輝く科学、柏から。<

特別講演会

平成27年10月24日(土)13:00-15:00  場 所:新領域環境棟1階 FSホール(定員:180名 先着順

 


13:00-13:40

早川 裕弌

地上のモノをくっきり、はっきり。

早川 裕弌(はやかわ ゆういち)
東京大学空間情報科学研究センター・准教授

 

「高鮮明」(High-Definition, HD)や「高解像度」(High-Resolution, ハイレゾ)、あるいは「三次元」(Three-Dimensional, 3D)といったキーワードは身近な家電量販店でもますます話題となっていますが、地図や地形を扱う空間情報科学の分野でも、高鮮明化の動きが浸透しつつあります。これを勢いづけたのは、ここ数年で急速に普及してきた小型UAV(Unmanned Aerial Vehicle, 無人航空機=通称ドローン)やレーザ測量といった技術です。

ここでは、地形(地面のでこぼこ)や地物(建物や道路、樹木といった地上にあるモノ)に焦点を置き、それらの高鮮明なデータ取得がどのように行われ、またどのように活用されているのかを、いくつかの事例をもとに紹介したいと思います。

カメラを積んだUAVは、有人航空機よりも低く柔軟に飛び回ることができ、地上で人が簡単に立ち入れないような災害現場でも容易に地上の様子を写真に収めることができます。さらに、多数の重なり合う写真を撮影することで、SfM(structure-from-motion)多視点写真測量という技術を通して地上のモノ(地形・地物)の3次元形状を細かく再現することが可能になります。また、光波を用いた地上レーザ測量(Terrestrial Laser Scanning, TLS)も、より正確に地形・地物の3次元情報を得る方法として普及してきています。従来から地表の現象を高高度から俯瞰した状態で捕らえる、いわば「鳥の眼」からの情報は得られていましたが、これを凌駕し、「虫の眼」で地表現象を捉えることがUAVやSfM、TLSにより可能になり、空間情報科学に革命を起こしつつあるのです。

 

13:40-14:20

蒲生俊敬

遙かなるインド洋:深海温泉をめぐる航海

蒲生 俊敬(がもう としたか)
東京大学大気海洋研究所・教授

 

火山といえば温泉。これは陸上に限らず,海底の火山にも当てはまります。世界の深海底には中央海嶺と呼ばれる海底火山山脈がボールの縫い目のごとく走り,随所で高温の温泉水(熱水)の噴き出ていることが知られています。

海底温泉では,固体地球と海洋との間で大量の化学成分がやりとりされるため,熱水の化学組成を調べることは,海洋の物質循環を解明する上で不可欠です。また,海底温泉の近傍では,チューブワーム,エビ,巻き貝など特異な生物群集が,太陽光に依存しない食物連鎖系を形成しています。その一次生産者として熱水からエネルギーを取り出すことのできる化学合成微生物は,地球上の生命の起源に近いとも考えられ,多くの研究者の注目を集めています。

海底温泉の本格的な探査・研究が始まったのは1970年代中頃からですが,欧米諸国に近い大西洋や東太平洋で先行し,インド洋では遅れました。我々は1993年以降,学術研究船「白鳳丸」のほか,有人潜水調査船「しんかい6500」や無人探査機「かいこう」も駆使して,インド洋の火山・温泉活動の調査を繰り返し実施しました。探査ターゲットは,3つの中央海嶺の交わるロドリゲス三重点(南緯25度),その北部海域(南緯18-20度),およびアラビア海からアデン湾にかけての海域(北緯12-14度)などです。

本講演では主としてロドリゲス三重点付近で実施した3回にわたる探査航海の成果を紹介します。手がかりのほとんどないインド洋の真ん中で,深さ2,500 mの深海底にひそむ温泉活動域の存在をいかに探り当てたか,そして終に熱水噴出の現場に到達し,インド洋で初の高温熱水試料・生物試料の採取に至る,紆余曲折をお話しします。

14:20-15:00

堀 洋一

100年後のクルマ

堀 洋一(ほり よういち)
大学院新領域創成科学研究科・教授

 

100年後のクルマは「モータ」「キャパシタ」「ワイヤレス」で走っているだろう。しかし,ガソリンと電気はエネルギーの形がまったく違うのに,なぜEV(電気自動車)が「止まって」,「短時間で」,「大きな」エネルギーを入れようとするのか,不思議である。ガソリンを町中に噴霧し,クルマがそれを吸い込んで走るなどということはまず無理だが,電気は実質同じことができる。

電池EVの航続距離が不十分なので街中で使おうとか,急速充電や高性能電池がキー技術だと言われているが,本当にそうだろうか。リチウムイオン電池自動車は重要なつなぎの技術であるが,長期的には消えるクルマである。

実はまったく異なるもうひとつの道がある。電車のように,EVに電力インフラから直接エネルギーを供給するのである。そこでは,短距離を走るパワーの出し入れにすぐれた「キャパシタ」と,クルマを電力系統につなぐ最後の数mを担う「ワイヤレス給電」が必須である。

よく考えてみれば,クルマにどうやってエネルギーを供給するかということと,どう使うかということは何の関係もないはずである。しかし,電池を使う限り両者は強くリンクされ,電池の性能が航続距離を決めてしまう。これはおかしなことである。

100年の後,人々は充電という作業から開放され,同時に,電気モータの優れた制御性を生かした「モーション制御」によって,クルマの効率や安全性は飛躍的に向上しているだろう。


特別講演会の会場案内図
特別講演会の会場